2023年5月12日【新しい耳】第32回テッセラ音楽祭第1夜、大瀧拓哉ピアノソロ〜ジェフスキの世界〜の内容に迫ります。
近代・現代音楽のコンクールとして名高いオルレアン国際ピアノコンクールで2016年に見事優勝した大瀧拓哉。
以後、フランスはもとより世界各地で活発に演奏活動を展開しています。
その磨き抜かれたクリスタルなサウンドは一度聴いたら忘れられない輝きを持ち、作品に向かう鋭くも真摯な姿勢と共に絶賛されています。
5/12(金)19時開演(18:30開場)の〜ジェフスキの世界〜では「バラード全6曲」一挙に演奏です!
これは世界でも初めてではないでしょうか。
ではプログラム、そして聴きどころをご紹介します。
プログラム
フレデリック・ジェフスキ: バラード全6曲 (1-4 ノース・アメリカン・バラード)
Frederic Rzewski : 6 Ballades (No.1-4 North American Ballade)
第1番 Dreadful memorie(恐ろしい記憶)
第2番 Which side are you on?(おまえはどちら側の人間だ?)
第3番 Down by riverside(川岸を下って)
第4番 Winnsboro cotton mill blues(ウィンズボロ綿工場のブルース)
第5番 It makes a long time ma feel bad(男を不機嫌にさせるには時間がかかる)
第6番 The housewife’s Lament(ハウスワイフの嘆き)
<聴きどころ>
ジェフスキ(フレデリック・ジェフスキ 1938〜2021)はポーランド系アメリカ人です。惜しくも2年前に亡くなりました。
「不屈の民変奏曲」が有名ですが、社会参加としての音楽のあり方を追求しながらも大変にノリもよく聴きやすい、音楽をたくさん書いています。どちらかといえばロックに近いでしょう。
今回の「バラード全6曲」も、労働闘争や虐げられた人々の歌を元にしながら、時には弱者に寄り添うように優しく、時には抑圧に対する怒りをぶつけるように書かれています。
元となる歌は労働歌、ゴスペル、囚人歌、革命歌、など抵抗の歌です。それぞれの元歌をご紹介しましょう。
<曲に引用されている歌について>
第1番Dreadful memories
元々はAunt Molly Jackson(1880-1960)の歌 。彼女はケンタッキー生まれで、炭坑夫やその家族の苦闘を歌っています。
第2番Which side are you on?
1930年初頭、炭鉱労働者と経営側とで起きた闘争の時に作られた歌。
(ピート・シガーによる元歌)
第3番Down by riverside
有名なゴスペル・ソング。「私たちはいつか自由になる」という思いが込められた歌です。
(マへリア・ジャクソンによる元歌)
第4番Winnsboro cotton mill blues
これもやはり、綿花工場の労働や抑圧を歌ったものです。
(ピート・シガーによる元歌)
第5番It makes a long time ma feel bad
これはアフリカ系アメリカンのプリゾン・ソング(囚人歌)で、苦しみや孤独、刑務所内の厳しい環境などが歌われています。
第6番The housewife’s Lament
主婦たちが家事や育児に追われ、疲れ果てている様子が描かれています。19世紀後半から20世紀にかけて流行りましたが、今にも通じる歌です。
(Janicis Harveyによる元歌)
フレデリック・ジェフスキの視点は常に弱者、抑圧される人々に向けられていました。彼の作品に抵抗の歌が刻印されることによって様々な闘争や事件が記憶されていきます。
音楽は人類の歴史のアーカイヴであり、負の歴史もまた刻まれていきます。
大瀧拓哉さんのインタビューでもそれぞれの事件を語っています。ぜひお聞きください。