第32回を数える【新しい耳】テッセラ音楽祭、今回も聴き手の記憶に刻み込まれる名演が繰り広げられました。
まず第1夜に初登場の大瀧拓哉さんは、フレデリック・ジェフスキの「バラード全6曲」という世界でも類を見ないプログラムに挑戦!
歌い継がれてきた労働歌、闘争歌、黒人霊歌などをモチーフにしたバラードですが、大瀧さんは作品に込められた痛み、怒り、そして絶望を見事に表現し、聴き手はまるで痛みや絶望感を共有したような感覚を味わいました。
プログラムの最後に演奏されたのは囚人歌を元にした「第5番」。演奏の後半で囚人の象徴のように鎖が使われるのですが、その「カチャリ」という音の連続が恐ろしく、背筋が凍る思いでした。演奏終わって、廻と一緒に鎖を持ってパチリ。
ジャンル越境のミュージシャンたちが集まった第2夜は、沢田穣治さんと伊左治直さんのインプロヴィゼーションで幕を開けました。
床から天井から全てを音楽の力で振動させる沢田のコントラバス、まるで蔓草が自由に美しい模様を描いていくような伊左治のピアノが混じり合い、会場は一気に不思議空間に!
そこに廻由美子が参入し、そこからは5人入り乱れ、柿本人麻呂の歌から小沼純一の詩、朗読と歌の境界はなくなり、むせかえるような熱気を孕む伊左治の摩訶不思議な作品を沢田と廻がどんどん自由にインプロヴィゼーション、など破壊力満点の演奏が繰り広げられました。
桑鶴麻氣子さんの深くて吸い込まれそうな不思議な声、新美桂子さんのピュアな、少し「座敷童子」みたいな声が響き合い、過去と未来が溶け合ったような「サウダージ」空間でした!
そして第3夜は寺嶋陸也さん、音楽祭8回目のご登場!寺嶋さんの音楽の「読み」の深さ、鋭い視点、表出力はいつも圧倒的です!
ショパンが書きたかったこと、伝えたかったことは実はこうだったんだなあ、と改めて感じさせてくれる見事なショパン「24の前奏曲op.28」に始まり、続く、間宮芳生の「3つの前奏曲」では煌めく音の粒が飛び散ったかと思えばアフリカのリズムが不気味に響き、また日本庭園のような静謐さまで表現され、会場の空気もさまざまな色彩に染められていくようでした。
後半の林光「前奏曲集<草稿の森>」では、林光さんが関わった数々の舞台、映画などに書いた作品のモチーフや、アイヌや沖縄民謡のモチーフなどから生み出された音楽が珠玉のように並び、その1曲1曲に凄まじい集中力で「小宇宙」を創り出す寺嶋陸也さんの演奏の力、それはまさに「音楽の力」そのものでした。
終わって爽やか笑顔ながらも「凛」とした表情はそのままの寺嶋さん。
毎回音楽祭の音づくり、位置決め、空間づくりは、なんといってもこの人!水島浩喜さん(B-tech Japan)
音楽のエネルギーに溢れる3日間でした!ご来場の皆様、本当にありがとうございました!
次回第33回は11月10、11、12日です!