2023年6月24日、廻由美子プロデュース・シリーズ「新しい耳」@B-tech Japan vol.5
凄まじいまでの集中力と圧倒的なクオリティの高さで聴き手を釘付けにした大瀧拓哉さん。終演後は一転して爽やかにリラックスした表情です。
大瀧拓哉さんが発する創造的なエネルギーの凄さに聴き手の集中力も爆上がりし、
B-tech Japan 東京スタジオが世界でも類を見ないクリエイティヴな空間となりました!
プログラムの最後に置かれたフレデリック・ジェフスキの「ベルリンのルービンシュタイン」に向かって全てが集約されていくような構成で、大きな音楽の時空を超える壮大な繋がりを思わせました。
冒頭に弾かれたシェーンベルクの「ピアノ曲op33」の第1音で、会場は20世紀前半のウィーンの往来になったよう。さまざまな歌、街の音、話し声、などが入り混じり、これぞポリフォーニー!
続くJ.S.バッハ=高橋悠治の「主よ憐れみたまえ」では、歌と歌が共鳴し合い、シェーンベルクの「源流」を聴く思いでした。
この後にトークがあり、大瀧さんは「シェーンベルクはブッ飛んだ和声使いながらもバッハなどの基礎の上に立っている」「やっぱり歌」と語っていました。
続くベルク「ソナタ」、ショパン「バラード第1番」については、「ベルクは不協和音もたくさん使った悲しみの表現とか出てくる。ショパンはもっと綺麗な和音だけれども、やはり一つの<ドラマ>を創り上げる」と。
また、ショパンを取り上げた理由については、「ジェフスキがポーランド系アメリカ人、ショパンもポーランド人、同じフレデリックという名前、2人とも作曲家でピアニスト。ショパンは4つのバラードを書き、ジェフスキは4つの<ノース・アメリカン・バラード>を書いたなど共通点がたくさんあり、ジェフスキが意識しないはずがない」
と語りました。
シュトックハウゼン「ピアノ曲IX」については、「ショパンを消し去るような強烈な音楽だけれども、実はジェフスキがそうで、すごく美しい音楽がきた、と思ってると、急にそれを全否定する。その感覚をプログラム的に体感しておいて頂こうかと」と、構成の秘密を披露。
そしてベートーヴェン「ソナタ第30番」についても「ああ、綺麗、と思ってるのに急にガッと変わる」、廻も「音楽家ってみんなヤバいのではないか」と返し、会場は笑いで包まれました。
そしてその4曲が演奏され、感情が濃すぎて崩壊しそうな気持ちを表現したベルク、血生ぐさい東欧の伝説を思わせるようなショパン、破壊して破片を煌めかせるシュトックハウゼン、そして意志の力でなんとか光に辿り着こうとするベートーヴェンが次々と表現され、会場は集中と熱気でムンムン。
ここで、いよいよ最後のジェフスキ「ベルリンのルービンシュタイン」登場です。
廻が「音楽はやっぱり『負』の側に立つんですね、影から光を見る。ジェフスキも本当にそうですね」と言うと大瀧さんも「そうです。この曲はあの大ピアニストだったアルトウール・ルービンシュタインの自伝から取られていて、彼が20歳の時の一番困窮して自殺未遂を図ったというまさに『負』の部分を取り出して、ショパンのノクターンを引用して、自殺を図る描写の言葉をのせて書いている。ルービンシュタインの言葉がとても音楽的。」と解説。
ちなみにこの曲は今回が日本初演であり、日本語訳は大瀧さんご自身が書かれたものです。
下の写真は一番の悲劇的な場面で「音の材料」として使われた小道具です!可愛い!
「ベルリンのルービンシュタイン」、大瀧拓哉さんの圧倒的なパーフォーマンスで聴き手はどこか別の次元にに連れて行かれたようになりました。1音も、1語も聴き漏らすまい、と客席は前のめりに。
アンコールにウクライナの作曲家シルヴェストロフの「Moments of Mozart」が演奏されました。全てが浄化されるような、宇宙的な空間を共有したコンサートでした。 |