2024年2月26日@すみだトリフォニー(小)の「死ぬるが増か 生くるが増か」のコンサートに伺いました。
演奏は、松平敬さん、工藤あかねさん、松岡麻衣子さん、村田厚生さん、橋本晋哉さん。
そして新作委嘱の作曲家は、桑原ゆうさん。
前半1曲目に松平敬さん(バリトン)によるジェルジ・クルターグ(1926〜)「ヘルダーリン歌曲集」(日本初演)。
暗い中登場した松平さんのソロの歌に聴き入っていると、3曲目でいきなりトロンボーン(村田厚生さん)、チューバ(橋本晋哉さん)が参入してきて、空間がビリビリと破ける!
その音が止むとまたソロに戻り、「今のは何だったのだろうか」という不思議体験。タル・ベーラの映画みたい。
2曲目は、やはり松平敬さんソロによる桑原ゆう作曲「葉武列士一段」の世界初演。
謡、端唄、浄瑠璃その他、日本の歌唱のあらゆる面がインプット&消化&昇華されていて、いわゆる日本語歌をイタリア・オペラ声で歌われちゃう時の「ゾワゾワ感」が全くなくて素晴らしく、日本語大好きな私は大喜び。
日本語って、ほーら、すごく響くし(これは松平さんの響き渡る声によるところも大きいでしょうが)、イントネーションも豊かだし、リズムは様々あるし、色彩豊かだし、喋ってるだけで歌になる言語で、イタリア語に全然負けないし。NHKアナの言葉は平坦な感じだけど、あれはあれで必要なんだから良いとして、日本語の中には「er」や、ウムラウト付き「o」の発音もあるって前に仲間のジャズ・シンガー HISASHIが言ってたけど、ほんと!と、日本語歌の素敵さを堪能しました!
さて、いよいよ後半は、工藤あかねさん(ソプラノ)と松岡麻衣子さん(ヴァイオリン)によるクルターグ「カフカ断章」。カフカとは、もちろんあの「変身」を書いたカフカ(1883〜1924)のことです
作品は、小さな断片の積み重なりで70分もかかる大作で、聴き手も演者たちと一緒に旅に出る覚悟で聴き始めるのですが、これがですね、実は「どこにも行けない旅」なんです。
その閉塞感たるや凄まじいものがあって、荒涼とした湿地帯をグルグルグルグル歩き続ける、みたいな感じで、聴き手もだんだん発狂しそうになります。
工藤あかねさんは、死んだ子に歌う子守唄のような声から、ヤバい人の声から、ガチョウや豚が走り回るような声まで出して、どうしようもない閉塞感、絶望、闘い、たまに見せる希望がさらに狂気を倍増させる、というカフカ xクルターグの東欧的世界観(こういう言い方あるのかどうか知りませんけど)を見事に表現。
ヴァイオリンの松岡麻衣子さんは、超絶難しいであろう楽譜を読み解き、身体に入れ、クルターグがなぜヴァイオリンという楽器に書いたか、その理由が、松岡さんの演奏を通して伝わってくるようでした。閉塞感バリバリなんだけど、どこか自由もあって、やはりヴァイオリンが旅する楽器だからでしょうか。
工藤さんは綺麗な花柄ドレスをお召しになっているにも関わらず、私には病院で支給される白いタポタポ服を着ているように見えたし(最高に良い意味です)、松岡さんは、スリムな身体を黒でまとめてシュッとしているというのに、まるでヘンな布製のクニャッとした三角の帽子と、ボロボロのグレーのダボダボ服を着てるように見えました。こちらも、最高に良い意味です。
そういえば、前半の松平敬さんは、荒地に1本立つ大木の下にいる悪魔みたいに見えたのは私だけでしょうか(最高に良い意味で)
タル・ベーラの7時間以上ある映画、「サタンタンゴ」を思い出し、ズーン、と来ながら帰途に。
辺境な村の、繰り返される日常、同じ酒場で同じメンツ、長々と繰り返し踊るタンゴ。閉塞感の中で一生を終える人々の日常を感じるには7時間でも少ないのかもしれない、と思わせる映画だったのだけど、それと似た感じを「カフカ断章」、そして前半も含むコンサート全体で受けました。それだけ皆さんの演奏や作品が素晴らしかった、ということに尽きますね。ありがとうございました!(廻 由美子/2024年2月28日記)
【お知らせ】
工藤あかねさんとは「新しい耳」シェーンベルク・シリーズ 2024で5月12日、11月24日の2回ご一緒します!
2024年5月12日(日)15:30開演(15:00開場)
会場:B-tech Japan 東京スタジオ(港区虎ノ門1-1-3磯村ビル1F)
工藤あかねx廻 由美子
〜背徳と官能〜
シェーンベルク:ブレットル・リーダー(キャバレー・ソング)、月に憑かれたピエロ(ヴォーカルとピアノ版)
2024年11月24日(日)15:30開演(15:00開場)
会場:B-tech Japan 東京スタジオ(港区虎ノ門1-1-3磯村ビル1F)
工藤あかねx廻 由美子
〜失われた楽園を求めて〜
E.シュルホフ:5つの歌 作品32(1919)
A.ツエムリンスキー:12の歌曲
作品27より8番~12番(1937~38)
A. シェーンベルク:「架空庭園の書」(1908~1909)
「新しい耳」HP
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